思考と言語化にこだわる独自の研修プログラムで、気づきを自己と組織の成長に
株式会社mazuWAでは、企業の「イノベーション・新規事業創出」「部門間連携」や、「離職問題の解決」を支援する研修サービスを提供しています。
研修で用いるのは、独自に開発したプログラム『Wow Camp』。日常の気づきを深掘りし、チームで共有し合うなかで、思考力や言語化能力を高めることを目的としています。
受講者からの声にも耳を傾けながらプログラムを日々改良しているなか、東京外国語大学の中山俊秀教授に言語学の観点から監修いただくことになりました。
今回は、監修者として参画されている中山教授とmazuWA代表取締役の山口に、『Wow Camp』の有用性や監修によって改善されたポイントなどを聞きました。
中山俊秀様
2023年に建学150年を迎えた国立大学法人東京外国語大学の副学長。アジア・アフリカ言語文化研究所の教授を兼務しており、専門分野は言語変化、ヌートカ語学(カナダ先住民言語)、言語コミュニケーション研究。言語学者の権威として、論文・書籍の発表や講演活動などにも精力的に取り組んでいる。
日常の気づきを起点に「深掘りして考える習慣」を身に付ける12カ月
-mazuWAが提供しているサービスについて教えてください。
山口:『Wow Camp』は日常の気づきを深掘りし、そこから言語化した「本質的気づき」を自身の業務に転用。その内容をメンバーで共有することで、思考力や言語化能力を養い、同時にチームエンゲージメントも高められる12カ月間のプログラムです。
私自身、もともと考えることが大の苦手でした。考えることは、抽象的であいまいな概念なので難しく感じてしまうんですよね。だからこそ、「考える方法」を言語化し、再現性のあるものにできれば、考えることに楽しく取り組めるのではないかという発想が基本にあります。
また私は、日本の企業・個人に共通する課題は「言語化能力の不足」だと考えています。自らの思考を周囲に伝える力が足りていない。あるいは自身の頭で言語化できていないがゆえに、相手の立場やそれに伴う気持ちを想像できていない。そこで、思考力と言語化能力の向上を大きな目標に設定し、マーケティングや人事などでの経験をフル活用して、『Wow Camp』を完成させました。
こだわっているのは、日常の気づきを起点としていることです。受講者には、日常生活での気づきを「なぜ心を動かされたのか」と深掘りし、言語化してもらいます。感情にフォーカスすることで興味が湧き、トレーニングが習慣化されていくところに大きな特徴があるのです。
自らが惹き付けられた要因を言語化によって明確にした後は、業務に転用するステップも欠かせません。インプットするだけでは意味がないので、業務上での成果につなげることを常に意識しています。
個人の能力開発を促進しつつ、その先に組織開発を見据えている点も『Wow Camp』の特徴です。個人の気づきをシェアすることは、自然発生的な自己開示の機会になり、相互理解とチームエンゲージメントの向上につながります。部署間の連携強化については、他部署の担当者になりきる「仮想ジョブローテーション」研修を取り入れています。
言語学の権威と人材育成のプロが模索する「言語の可能性」
ー中山さんが監修者として参画することになったきっかけを教えてください。
中山:LISTENの出版記念パーティーで、お会いしたのがきっかけです。私が言語学の研究者だと言うと、山口さんが「実は言語について考えているんです」と話されて。
私自身、学術的な範囲を超えたところに、自分の研究活動を広げていきたいと考えていた矢先だったので、ビジネスにおける言語コミュニケーションに、言語学がどのように役に立ちうるのか、ぜひとも聞いてみたいと思ったんです。そこで意気投合し、今に至っています。
山口:私としては、藁(わら)にもすがる思いでした。『Wow Camp』は、私自身の経験や世の中の課題を反映させながら作り上げたものなので、自信を持っています。しかし、言語の扱い方に関しては、改善の余地があるのではないかと悩んでいました。そんな時に中山さんに出会えたので、言語学の観点から、『Wow Camp』の有用性や改善点を助言してもらえたらと期待しました。
印象的だったのは、「重要なのは『文脈』。言語表現は多様に解釈されうるため、その意味は、前後にある言葉や話の流れ、感情などに大きく左右される」と教えてもらったことです。自分が求めていた答えのような気がして、その瞬間、もう付いていくしかないなと思いましたね。
ー『Wow Camp』に対して当初どのようなイメージを持っていましたか?
中山:研修というと、やるべきことや従うべきステップがあって、理屈も言葉で教えるスタイルになりがちですが、『Wow Camp』では受講者の気づきを起点としています。日常の気づきから思考を起こしてほかの人と共有する、というプロセスを重視している点にポテンシャルを感じました。
物事のエッセンスを言葉で伝えられても、受け取る方は腑に落ちないし、応用も利きません。自分の経験の中での具体的な気づきに結びつけて、考え、咀嚼していくことで、初めて本質を理解できます。
思考の言語化に軸を置いた研修プログラムの話を最初に聞いた時、「文脈を意識して言語化し理解すること」を研修の中に組み込んでいくと、より強力なモデルになるのではないかと思いました。言語表現の受け取り方は人によって、状況によって異なるため、自分が意図することを正確に伝えるためには、文脈をよく意識することが重要になります。
その観点から、仮想ジョブローテーション研修などはとても興味深いです。仕事の役割を代わってみる経験をすることで、立場によって目の付け所、物事のとらえ方が変わることが分かる。つまり、文脈次第で受け取り方が変わることを理解できるので、思考を伝えるときにも「相手はどういう文脈で聞いているんだろう」と考えられるようになるわけです。このように、文脈理解を意識的に研修に盛り込むことで、プログラムの核をなす言語化というプロセスが緻密になったと思います。
山口:文脈の重要性は、私の中で感覚的な理解にとどまっていたので、人にうまく伝えられないことがありました。今では、中山さんのフィードバックによって理解が深まり、再現性のあるものに変わっている感覚を持てています。
『Wow Camp』は課題解決への入り口。対話を通じて共通理解の土台を作る
ー言語学の観点から見て、『Wow Camp』の優れている点はどこにありますか?
中山:気づきを意識化し、言語化するためのさまざまな仕掛けを取り入れている点です。漠然とした印象や無意識の反応を掘り起こし、言語化していく工程を踏めば、解像度を上げて表現する力が養われ、思考を正確に伝えられるようになります。
現代の社会課題を解決するには人々の協働が必要ですが、人によって理解の仕方が異なるなかで力を合わせることは簡単ではありません。しかし、文脈の重要性を全員が知っていれば、伝え方の精度や受け取った言葉への理解度が上がり、対話の中で異なる考えを調整していくことができます。共通理解の土台を作る『Wow Camp』は、課題解決への入り口になるのではないでしょうか。
山口:中山さんと話すたびに思うのは、現代の便利さが豊かな未来の創造を阻んでいるということです。好きや嫌いで終わるのではなく、なぜそう感じるのだろうと自分で考えることが、面倒だけれど大切なんです。『Wow Camp』は、本質を考えるきっかけを提供しているに過ぎません。
ー『Wow Camp』はどのような課題を抱えている企業に適していますか?
中山:課題を抱えていながら、現場の違和感や気づきを意識化し共有するプロセスを作ることができていない企業には、『Wow Camp』をお勧めしたいですね。
個人個人がせっかく気づいていることも、共有されなければそのままスルーされてしまいます。しかし、現場の気づきは重要なセンサーなので、意識化して、共有するカルチャーをインストールしていく必要があると思います。
また、部門間の連携に悩んでいる企業にも効果を発揮するのかなと。仮想ジョブローテーションや対話の機会を持つことで、自然とコミュニケーションがとれる環境を作り出し、相互理解を深めることができます。結局のところ、『Wow Camp』を必要としない企業の方が少ないのではないでしょうか。
ー『Wow Camp』の受講者はどのような反応を示していますか?
山口:『Wow Camp』の受講者は初日を終えた時点で、日常の気づきを意識し始めます。特に印象に残っているのは、「自分の興味に興味が湧いた」と言ってもらえたことですね。受講日の夜にスマートフォンを見返すと、なぜいいねを押したのかも分からない投稿であふれていることに気が付き、自らの思考を振り返ってみたそうです。狙い通り成果が出ているなと実感した瞬間でした。
中山:大切なのは、意識変容です。無意識でいると、いつまでたっても何も残りません。逆に、自分を対象化して関心を持てるようになれば、何事にも興味を持って取り組めます。内発的動機付けを促せているということは、『Wow Camp』の成果が出ている証拠だと言えるのではないでしょうか。
『Wow Camp』で企業をつなぎ、より良い日本の実現を目指す
ー監修者として、今後『Wow Camp』はどのような発展の可能性があると思いますか?
中山:人のとらえ方や考え方は個人の意識によるものだと思われがちですが、実際には一緒にいる相手からも大きな影響を受けます。広い意味での文脈ともいえますが、相手との関係性が重要になってくるわけです。なので、私たちは常に誰かと共に物事を見ていて、相互に影響し合っているという前提を『Wow Camp』に反映できれば、より効果的な研修になるという気がしています。
山口さんは常に内省し、何かを見いだそうとする意欲と能力があるので、さらに話し合いを重ねて、より良いものを作っていきたいです。
ー今後の展望を教えてください。
山口:一言でいうと、『Wow Camp』を通じて日本を良くしていきたいと思っています。『Wow Camp』を使えば、部門間連携にとどまらず、企業間の連携強化にもアプローチしていくことができるはずです。仮想ジョブローテーションの範囲を拡げ、各企業の担当者がお互いの業務を疑似的に体験することで共感が広がり、もっと日本が良くなると考えています。
とはいえ、まずは目の前の方々に精いっぱい向き合うことを大事にしたいと思います。結果的に、『Wow Camp』の成果が波及していけばうれしいです。